このページは、
TH-77にWide-FM化をほどこし、気象衛星の画像を受信し復調することを目標に行いました。その記録です。

初めて御覧になる方は、気象衛星受信も見て下さい → 概 要 ページ

日本列島付近の画像はこちらです → http://globe3.ddns.net/~public/wx_scape/ で す。


概説:

このページは気象衛星NOAAの画像受信が出来た後に、より鮮明で細かな中間色を出 し、かつ、ノイズを押さえる等々工夫をした履歴です。

メーカー製無線機搭載のFM復調ICも、こういう形で手を加える事によって、
より詳細な画像(Wide化後の受信画像をご覧下さい)を得られる例として、参考して頂く為にまとめました。


FM復調ICの前後の2ヶ所の素子を取り替え、最低限で廉価に実現出来ました。
言い方を変えると「全体&解らない所はメーカー製無線機におまかせ」状態です。

2ヶ所の改造場所が少しでも分かりやすいように色分けを致しました。
ICの前段で行われる混信防止・離調周波数の設定は、青 色で表し、
ICの後段で行われる復調したい帯域幅の設定は黄色で表していま す。


気象衛星の受信は先達の方々による涙ぐましい(楽しい?)努力により、公開されている多くの方のページを参考にさせて頂きました。
ありがとうございます。



目次:
 1.気象衛星NOAAの電波受信について
 2.気象衛星NOAAはどこにいるか? アンテナはどういうものを使うの?
 3.気象衛星NOAAの電波を受信するアンテナの実際の選定
 4.TH-77はNALLOW-FM(周波数帯域幅+-10KHz以下)だ (Wide化前の受信画像)
 5.TH-77の中身、受信回路はどうなっているか?
 6.NALLOW-FMのセ ラミック帯域フィルタ復 調用セラミック共振子
 7.セラミック帯 域フィルタ同等回路の作成
 8.セラミック共 振子の同等回路の製作
 9.TH-77の復調周波数50KHz化の結果 (Wide化後の受信画像)
10.受信感度を上げるためのブースターについて
11.アンテナの衛星軌道追尾について
 このページの著者について 編集は、globe3.ddns.netで行っています。



1. 気象衛星NOAAの電波受信について

気象衛星NOAAの発信する電波は周波数137MHzであり、FM変調(帯域幅50KHz程度)です。

これに対し、TH-77というKENWOODから1990年頃発売されたアマチュア無線機は、
アマチュア無線バンド144MHz帯とアマチュア無線バンド430MHz帯のFMハンディー・トランシーバーです。

ところが、郵政省(当時)より不法無線局取り締まりの強化により、アマチュア無線機は、
アマチュア無線バンド帯域外での送信の禁止(当たり前)だけでなく、この周波数域を受信出来ないようにして、
認定マーク(略称Jマーク)付きの無線機しか、各アマチュア無線機メーカから販売許可しないような法策を取りました。

ちょうど、その方策が出来た頃にTH-77は発売されました。

しかし、一般にはアマチュア無線以外に公共の電波の傍受、例えばエアバンド等の受信をしたいので、メーカー側も簡単に、
しかし購入者の責任で、上記Jマークの改造が出来るようにして、
販売台数を伸ばすよう、画策し簡単にユーザが改造出来るようにしていました。

さて、話を元に戻します。
気象衛星の周波数137MHzを上記の様な無線機で聞くには、受信改造が必要です。

これは「アクションバンド」という雑誌や幾多のWEB Siteに書かれているので割愛します。
globe3.ddns.netの無線機TH-77も受信改造をしてあります。

この受信改造は合法、非合法等、論議のある点ではありますが、「傍受の内容を他人に漏らしてはならない。」という点と、

NOAAが、

「NOAA等の気象衛星の電波を趣味でどうぞご自由に受信して楽しんで下さい」

と表明している事から、NOAAの雲の画像を受信する為の改造は良い、という事にします。
(最近では総務省(元郵政省)から、この点の詳しい発表を聞きません。)

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2. 気象衛星はどこにいるか? アンテナはどういうものを使うの?



トラッキング・アプリケーションのひとつ「J-pass」よ り

トラッキング・サイトと呼ばれる、衛星の位置を表示してくれるサイトがあります。
国際宇宙ステーションやスペースシャトルや気象衛星など、地球を周回している衛星を確認する事が出来ます。

http://science.nasa.gov/realtime/
NASAの衛星位置表示です。各種あります。

このようなサイトに助けてもらい、いつ自分のいる場所の上空に気象衛星が飛来するか確認して下さい。

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3. NOAA気象衛星の電波を受信するアンテナの実際の選定


   
「左:ターンスタイルの概略図」    「右:作成したターンスタイルアンテナ」
   
無線機が受信出来るようになれば、次はNOAA気象衛星が発信する電波をキャッチする、アンテナの作成です。

これがアマチュア無線のように交互に送信、受信するのであれば、アンテナのVSR(反射波)率が1.5以下になるようにするのが目安で、
アマチュア無線のマッチングでは50Ωになるようにアンテナを製作する必要があります。

しかし、気象衛星では電波の送信は無く、受信のみなのでVSRにこだわらず、受信出来る事を目的としているので、
上図の1/4λ(ラムダ=波長)のダイポールを組み合わせたものを、簡単に作成したもので受信できます。


下図は、マスプロ電工から売られている144MHzアマチュア無線用の
八木アンテナ(5エレメント)を組合せ、水平ローテータ付きの架台に載せています。

 
「左:マスプロのカタログよ り」 「右:左の八木・宇田をターンスタイルに加工」

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4. TH-77はNALLOW-FM(周波数帯域幅+-10KHz以下)だ


「TH-77の気象衛星NOAA14号の受信画面」

さて、TH-77の通常の受信時はどのくらいの離調周波数なのでしょうか?
通常のアマチュア無線帯域144MHzでの周波数は、暗黙の了解で以下の割り振り方をしてます。
  :
  :
143.98MHz
144.00MHz
144.02MHz
  :
  :
これは、すなわち、隣の周波数が20KHz前後に有る訳なので、いくらキレの良い送受信機でも、
最高でも周波数帯域幅は+-10KHz以下でないと、隣りの周波数と混変調してしまいます。

ということは、TH-77を設計する時点で電波の有効活用の点から、
周波数帯域幅がおのずと+-10KHzで設計されていることになる。

しかし、考えてみて欲しい。時報の「ポーン」という音が440Hzは知れたところ。
これがピアノ鍵盤で言う「A3」です(数え方によってA4)。

ピアノの一番高い音は周波数で4KHz程。人間の話し声は十分に通じる周波数帯域幅を持っている。
しかし、受信したい気象衛星NOAAの受信帯域幅は、+-50KHzと広い為に、
TH-77の受信機能を改造する必要が出てきた。次はここを解明します。

改造以前に受信し、復調した画像を以下に紹介します。

「東シナ海の台風」(TH-77は狭帯域のままの受信改造にて復調)

画像左側の横向きの縞模様部分を「テレメトリーフレーム」と呼びます。
この部分が、狭帯域の為、灰色の中間色が出ていません。

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5. TH-77の中身、受信回路はどうなっているか?


「TH-77を開けた所(Wide-FM化の造済み)」

TH-77の中身を開けてみた。

基板で分けるとご覧のように、マイコンの入った制御基板1枚、
VHF144MHz周波数帯の送受信基板1枚、UHF430MHz周波数帯の送受信基板1枚、
計3枚から成り立っていることが分かる。

この中で、IC化されているであろう、FM復調ICを探してみると、UHF基板にMC3372×1個、
VHF基板にMC3372×1個、TA7782AF×1個、計3つある。


「復調用IC、MC3372の外観」

TH-77をお持ちの方はご存じだろうが、このハンディー機は2波同時受信機能があり、V×U受信と、U×U受信が出来る。

VHF基板とUHF基板の2枚で2波同時受信なので、
V×U受信はそれぞれの基板のMC3372がFM復調をしていて、
U×U受信の時は、無理にVHF基板のTA7782AFがUHFの受信をしているだろう、と想像が簡単につきます。

WEB上で2つのICのデータシートを探し、137MHzVHFの受信なので、MC3372のデータシートを見てみる。

その中に興味深い内容が書いてある。


「FM復調用IC、MC3372付近の回路図」

ここには、MC3372のFM復調について詳しく書かれてあり、記述と特に上記回路より、
村田製作所の455KHzのセラミック帯域フィルタ、および455KHz復調用の共振子が
使われていることが分かる。

また、英文を読むと、復調に使われるpeak separation(ピークセパレーション)は、
共振子とダンピング抵抗の値で帯域幅が変わると書かれている。原文はこれ。


「FM復調用IC、MC3372のデータシートより説明文」

これで何となく分かってきた。が、もう少し情報が欲しい。

ここで、TH-77の発売元であるKENWOODにお願いして(上手なお願いの方法があるのだが)、このFM復調付近の回路図を頂いた。

するとどうだろう。ほぼ、上記MC3372の回路図と同じであった。

回路図に書かれているセラミック帯域フィルタは村田製作所のCFUM455Eで多少型番が違うが、
外観を見るとTH-77に入っているセラミック帯域フィルタと一緒である。


「FM復調用IC、MC3372の前段に付けられたセラミック帯域フィルタCFUM455E/村田製作所」

同様に、回路図に書かれている復調用のセラミック共振子は村田製作所のCDBM455C16で、
型番が多少違うがTH-77に入っているセラミック共振子と一緒であった。


「FM復調用IC、MC3372の後段に付けられたセラミック共振子CDBM455C16/村田製作所」

ここまで分かったので、この2つのセラミック素子が何をしているか次に確認する。

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6. NALLOW-FMのセラミック帯域フィルタと復調用セラミック共振子

さて、ここまで来て、今度は村田製作所のデータシートをWEB上で見つける。
するとそれぞれ帯域幅の大小でレパートリーがあることが分かる。例えばこれ。


「セラミック・フィルタCFUM455Eシリーズ、データシート/村田製作所」

ご覧になってお分かりだと思うのだが、CFU455E2は40dB帯域幅が+-15KHz
これに対してレパートリーのCFU455B2は40dB帯域幅が+-30KHzと帯域が広い。
ならば、後者に交換したらどうか? と考えるのは自然です。


また、セラミック共振子も同様にレパートリーがある。例えばこれ。


「セラミック・共振子CDB455シリーズ、データシート/村田製作所」

同様に考えて、CDB455CL9に替えると帯域幅が+-15KHzに広げることが出来る。


と考えたところで、秋葉原で探すが見つからず、直接、村田製作所に見積もってもらったところ、
それぞれ1個買うのに5000円、5100円という答えが返ってきた。

元に使用しているTH-77は中古市場で15000円である。「さー、自作してみよう」ということになった。

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7. セラミック帯域フィルタ同等回路の作成

まず、周波数特性を村田製作所のデータシートで確認する。

「セラミック・フィルタの特性図/村田製作所」

CFU455E2は何をしているか?
どうやら帯域フィルタ(バンドパスフィルタ)として使用していることが分かる。

この等価回路を作成して、代わりにすればいいのでは?

ということで、「バンドパスフィルタ=ローパス・フィルタ+ハイパス・フィルタ」
(BPF=LPF+HPF)を作成することになった。

そこで、ローパス・フィルタとハイパス・フィルタを計算してみた。
合わせて405KHz〜505KHzまでの帯域フィルタを作成すれば、
中心周波数455KHz +-50KHzが実現できそうだ。

ここで、計算式を使わせて頂いた、RF on WEB programの作者、
JR6BIJ山添さんに感謝すると共に、いろいろと挑戦している山添さんのサイトが面白いため、
こちらにリンクをします。無線に限らず必見です。

まず、ローパス・フィルタ(LPF)〜505KHzの計算は以下のように記述して実行


「RF on WEB program よりローパス・フィルタの算出」

作成したローパス・フィルタは以下の写真のようになりました。


「実際に配置したローパス・フィルタの外観」

また、ハイパス・フィルタ(HPF)405KHz〜の計算は以下のように記述して実行


「RF on WEB program よりハイ・フィルタの算出」

で、出来上がった外観はこれです。


「実際に配置したハイパス・フィルタの外観」

このハイパス、ローパス・フィルタはその後、TH-77内部に収められるように再計算を行いました。


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8.セラミック共振子の同等回路の製作


「セラミック・共振子CDBM455C16の周波数特性/村田製作所」
この周波数特性は、FM変調用IC、MC3372と組み合わせた時のMC3372のRF出力です。
上図の場合、周波数特性で+-15KHzのみ復調している事が解ります。


「FM変調用IC、MC3372でのFM復調特性について述べた文章」

上記最下行に、
「復調はダンピング抵抗値と455KHzのセラミックフィルタのバンド幅に依って決まる」(意訳)
と書かれています。

また、


「FM変調用IC、MC3372の設計概説」

によると、
「MC3372は455KHzのセラミック・共振子か、並列LC回路のどちらでも使えるように設計している」(意訳)
と書かれています。

上記の図や説明文から、自作で並列LC回路を作り、50KHzのバンド幅を持たせればよさそうです。

以下、順を追い、並列LC回路で455KHzを中心にし、+-50KHzの幅を持たせるよう計算して、、
共振回路で簡単なLC共振回路のL値とC値を求めます。

共振させる為の条件、共振周波数は、共振周波数f=1/(2πLC)なので、
    455KHz=1/(2×π×L×C)・・・・・・1式
これを計算するとL×C=●マイクロH×■pFだと分かります。(●と■は今未定)

共振するためのインピーダンスマッチングは、MC3372の回路図R12の4.4KΩを参考にして、
帯域幅、B=f/Q=50KHzとするためにQ=R/(2πL)・・・・・・2式に代入します。

すると 50KHzの帯域幅ならば455KHZを中心周波数として共振させるには、
2式のLを求めた後、1式にLを代入し、
L=180μH、c=680pFと計算が出来ます。

備考:
LC共振回路についてはCとLを並列につなぎ、
アマチュア無線の場合はCFZ研究所のバリコンを使用して共振(同調)周波数を作り出す例が、
書籍やWEB上であるので、参考にして下さい。


「改造後のLC共振回路の写真」
並列LC共振回路です。

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9. TH-77の復調周波数50KHz化の結果

ここまで来て、気象衛星NOAAを受信する。
上述している狭帯域のままの画像と較べると、画像左側の横向の縞模様部分(テレメトリーフレーム)に、
グレースケールの中間色が出て、鮮明な画像が出ているのが分かります。

「気象衛星NOAA15号より受信した、TH-77のWIDE-FM化した映像」

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10.受信感度を上げるためのブースターについて


「高周波増幅回路を144WH5に組み入れ」

このブースターは、秋月電子から広帯域増幅キットとして売られています。
(2006年6月現在は未確認です)

ブースターの設置場所はアンテナに近い程、ノイズが減ります。
そのため、写真のように144WH5のラジエータ部と同軸ケーブルへの接続部の、黒いパッケージの中に直接ブースターを埋め込んでいます。

電源の確保や雨水対策が必要ですが、屋内ブースターでは、
ひきまわした同軸ケーブル上で拾ったノイズも増幅される為、この方法は鮮明な画像を得る為に良い方法です。

また、この高周波増幅IC、μ1651GはNF(ノイズ・フィギア)が大変低い素子なので、ブースと能力が、ノイズの発生より強い効果があります。
結果としてS/N比が必要なレベルに上がり、満足しています。

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11.アンテナの衛星軌道追尾について

部品には自動車のワイパー・モータを使いました。
モータを脚立に固定して、追尾しています。

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[上空800km からの風景] [globe3.ddns.net]